がんは治療して治ってしまえばそれでよいのですが、当然治らない場合もあります。
一度治療した「がん」がぶり返してきたときに、それが再発なのか、転移なのか区別を教えてほしいというご依頼があったようですので、お答えしておきましょう。
まずは治療前の話から。
がんが見つかると色々な検査をします。
それによって、原発部位の大きさや周囲への浸潤の程度、さらにリンパ節転移や遠隔臓器転移などを評価し、0期から4期までの病期が判定されます。
乳がんの場合、0期といってもその広がり方は1センチ以下のものから10センチ以上のものまで含まれますから注意が必要です。1期と2期にはそこまで大きな幅はありませんが、3期にはかなり色々な状態が含まれており、4期に至っては1か所に臓器転移がある場合から、身体中の多くの臓器に広範囲に転移があるものまで様々です。
ステージが同じなら同じようなものだと安易に考えてはいけないわけです。
でも、医学生の試験に出るような細かいステージ分類を覚えても、数年ごとに変更されますから、こだわり過ぎても仕方がありません。
ほかの方と病気の詳しい話をしたいときには「どの部位にどれくらいの大きさの病巣があった」という話が、多分一番正確です。
いずれにしても、診断が済んだところで治療になり、その後の経過観察になります。
がんを治療した後経過を診ていくと、残念ながら、病気がぶり返す人がいます。
がんがぶり返した時、広い意味で「再燃」という言葉がすべての状況を表現していますが、一般にはあまり使われていないかもしれないですね。
つぎに「再発」。
これは「再度発生」なのですから、本来は「転移」と区別するために、治療後一度良くなった部位の「局所再発」を意味するべきで、厳密にいうと、もともと病気があった場所そのものに病気がぶり返している状態です。
例えば、同じ右の乳腺内でも、当初のがん病巣が上外側で、再燃した部位が下内側であった場合、これは「再発」ではなく、「新病巣」ないし「転移」と判断すべきですが、医療従事者でも正しい表現はしていないかもしれません。
ただ、外科手術や放射線治療後の場合、「局所再発」なのか「新病巣」ないし「転移」なのか、その判断は治療効果判定上、極めて重要です。
だから、その点について言葉遣いにこだわりを持たないお医者さんは問題ありでしょう。
患者さんならともかく何でも「再発」と呼ぶ医療従事者は困りものですね。
最後に「転移」というのは、原発部位から離れた部位の病巣を広く呼ぶ言葉ですが、転移病巣でも治療前に存在していたものが、治療後一度良くなり、その後ぶり返した時には「再発」や「再燃」の方が本当は適切だと思います。
でもこれはあまり正確に区別するのは難しい場合も多いですね。
言葉というものは、何気ないようでいて正確さにこだわると難しいものです。
ここで皆様に、僕が最近仲良くしてもらっているドリアン助川さんの
「プチ革命 言葉の森を育てよう」という岩波ジュニア新書の一冊をお薦めしておきたいと思います。
言葉を中心として日々の生活を見つめ直すのに十分な一冊でした。
これを読んで良かったと感じた方には「ゲーテの言葉」と「あん」もお薦めです。