前回のコメントから1か月余りが経過しました。1月に書いたものや3月に書いたものの反省点をあげると、自分が単身生活なので、軽症者は自宅安静と気軽に書いていましたが、ご家族と同居している方はたいへんですね。ホテル利用が始まりましたが、赤ちゃんなど小さなお子さんがいてご両親が感染した場合など、どうすればよいのかアイデアが浮かびません。家庭環境による個別の難しさを痛感しています。
オンコロジークリニックでは、スタッフや患者さんの体調管理に加えて、入り口での消毒、診察前の手洗い、待ち合いで患者さん同士が一緒にならないように予約時間をずらし、治療ベッドは一人ごとに消毒しています。飛沫の飛散を防ぐために全員がマスクをしさらに距離を取って話をしています。幸い気温が上がってきたので、待ち合いのベランダの窓は開け放しいつも換気しています。残念ながら、緊急事態宣言が出た地域からおみえになる患者さんの入院が難しくなりました。
政府が三月初めに専門家の勧めなしに唐突に出した小中高の一斉休校宣言の後、一旦は減っていた市民の外出が、桜の開花とともに三月下旬からもとに戻り、その後さらに感染者が増えたので、先週7都府県に緊急事態宣言が出されました。加えて自ら緊急事態を宣言する自治体も増えています。先日、羽田空港から鹿児島に移動しましたが、本当にガラガラの空港は初めて見る景色でした。五月に収束するとはとても思えませんが、ある程度のブレーキはかかると思います。
毎日の報道や情報番組でもコロナの話題が大半を占めています。新型なのでわからないことが多いのは当然なのですが、不安から発生する極端な意見も増えており、社会全体が少しパニック気味になっていると感じています。これは医療マターばかりでなく政治マターが大きく絡んでいると思います。政府の対応が酷過ぎると思います。
急速に患者が増加した欧州の各国がロックダウンして都市閉鎖したのには驚きましたが、国民を守るために休業補償とセットになっているところは、日本と違って政治が政治として機能していると感じました。もし海外で、「自粛しろ補償はしない」と政府が言えば革命が起きる、と報じた新聞がありました。確かに、国民の危機を救おうとしない政府など存在価値がありません。
しかし、ロックダウンしている欧米でも感染者の数は、まだ全人口の0.2-0.4%程度に過ぎません。検査が行き渡っていない日本では1億人に対してまだ1万人弱、全人口の0.01%ということになっています。もちろん、日本の感染者数は実は10倍以上だろうと推測する人がいますし、本当はもっと多いのかもしれません。
けれども、日本の本当の感染者数が実はわかっている百倍以上で、100万人であったとしても、全人口の1%に過ぎません。つまり、日本人の99%以上は、これからウイルスに感染するリスクがあるわけです。有効で安全なワクチンが開発されない限り、ウイルス感染しない人は、既に感染して抗体ができた1%未満の人だけです。収束させることがいかに難しいことか。
先進国で、人口のわずか1%未満が感染しただけで国中が大騒ぎになり、医療崩壊が起こり始めるなどということは、今年の初めまで世界の誰も想像していませんでした。ワクチンができるまでは収束などありえません。最短でも半年。おそらく1-2年は今の状態が続くと考えるべきでしょう。北半球ばかりでなく南半球でも感染が拡大していますので、季節が変われば自然にいなくなる、といった御しやすいウイルスではありません。人類の多くがこのウイルスに感染して抗体を持つか、有効なワクチンができるまで出口は見えません。武漢でウイルスが収束したなどというのは、全くのウソだと思います。
劇的に効く治療薬が開発されれば亡くなる人の数は減ります。アビガンという坑インフルエンザウイルス薬が試されています。効果が確認されれば、有効な役割を担ってくれそうですが、胎児の催奇形性以外の副作用が説明されていないのは心配です。催奇形性は投薬の禁忌です。重大な副作用として注意が促されているのは若年者の異常行動、ショック、肺炎、劇症肝炎など命に関わるものもいくつかあります。私は、若くて無症状な患者さんに使うのは疑問です。
金融以外の業種では影響が少なかったリーマンショックの時でさえ、今より毎年の日本の自殺者は1万人多かったようです。すべての業種がダメージを受けている今回、休業補償とその先の経済政策をしっかりしないと、コロナ以上に別の原因による死者が増えると言われています。当面は感染のオーバーシュートによる死亡者を減らすために医療崩壊しないことが最重要です。しかし、すぐに収束させられないものを収束させようとしても無理が出ます。嫌でしょうが、ウイルスと上手くつきあうという方法も考えざるを得なくなると思います。
1ヶ月間船内に閉じ込められたクルーズ線の乗員乗客は、五人に一人が感染しました。感染者数は多いですが、その半数は最初から最後まで無症状のままの不顕性感染で済んでしまったと報告されました。また、多数の感染者を出しながらも医療崩壊しないで済んでいるドイツは、他の欧州諸国の五分の一以下の死亡率で済んでいます。スウェーデンは高齢者や健康状態に問題のある人をしっかり保護して感染を防ぎ、それ以外の市民には強い制限を与えず、社会生活を守るために国全体をロックダウンしないで運営を続けています。日本はドイツやスウェーデンから学ぶべきことがたくさんあるように思います。
今回のコロナで命を失う人が何人出るのか数年先までわかりませんが、これまでも日本では、毎年3000人くらいがインフルエンザで亡くなり、毎日200-300人が肺炎で亡くなっていたようです。コロナ肺炎で死亡する人が日々増加することでパニックにならずに、これらの既存の疾患と比べて死亡者数がどうなのか冷静に見る目も必要です。医療崩壊を防いでできるだけ死亡者数をおさえるのは主に医療マターですが、自治体によるホテルの借り上げなど政治マターも絡んでいます。これに対して、コロナによる経済不況で失業し自殺に追い込まれる人がどのくらい出てしまうのか。こちらは完全に政治マターです。
オーバーシュートを押さえ込むための休業補償と、押さえ込んだ後の経済支援。私たち国民は、この国の政治が国民の生命と財産を本気で守ろうとしているのか、暴力的でない革命を起こすくらいの気持ちで、政権や官僚の尻を叩かないといけないと感じています。国民には政治は変えられないなどと、これまで通りの緩い気持ちでいたのでは死亡者が大勢出ると思います。いまこそ命を守るために主権在民だと思います。