緊急事態条項は民主主義の終焉

 日本には憲法、条約、法律などルールがいくつかあります。
日本国憲法は、国のあり方を規定する最上位のルールで戦争を放棄し主権者である国民の権利を保障しています。
間違った政治が暴走しないように為政者に縛りをかけるものです。条約は他国との約束事で、互いに平和で安定した関係を維持できるよう締結・批准されています。
法律は、身近なルールで、他者へ迷惑を及ぼさないように国民が互いに守るべき決まり事です。
国会で議論されて立法されています。

 現在、自由民主党や日本維新の会が中心となって日本国憲法を改変しようとしています。
いわゆる改憲問題は昭和の時代からありました。古くは、自衛隊の存在が違憲ではないかといった議論が中心でした。
しかし、災害時の救援活動などで国民のために尽力する自衛隊、すでにその存在は日本共産党でさえ認めています。
自衛隊が不必要と思う国民はまずいません。ただ、第二次安倍政権が憲法を無視して定めた集団的自衛権のために、海外での戦争に巻き込まれて死傷者が出るのではないかと心配する国民は大勢いて、自衛官志願者も減少しています。

 自民党が、現在掲げている憲法改変の重要項目は四つ。その中には「自衛隊明記」も入ってはいますが、明記してもしなくても、自衛隊を必要と考える国民の意識は変わらないのであまり意味はありません。他に、「選挙区合区の解消」「教育の充実」が挙げられていますが、合区は自民党が勝手に行ったことですから、憲法を持ち出さなくても解消できます。教育の充実は、国民の権利で現行憲法でも尊重されています。さらには当初、自民党は「教育の無償化」としていたものを「教育の充実」にあとから変更しました。無償化こそ最大・最良の充実ですから、すでに充実させる気がないことがバレています。

 現在、自民党が本当に行いたい改憲は「緊急事態条項」を憲法に盛り込むことです。一部の賢者が強く指摘していますが、これは本当に恐ろしい企みです。改憲議論は、国会では数の力で自民や維新中心に無理矢理通されてしまいます。ですから、最終的に、多くの国民が「緊急事態条項」の危険性に気づいて国民投票で阻止しないと日本の民主主義は終焉を迎えます。

 自民党が盛り込もうとしている緊急事態条項は、大災害や大事故や紛争など、総選挙が行いにくい事態が発生したときに、総理大臣が「緊急事態」と宣言すれば、その瞬間から緊急事態になってしまうという、国民も国会の意向もまるで無視したとんでもない代物です。そして、政府はそれ以降、内閣の閣議だけで国の法律や予算を作ることができるようになってしまうのです。三権分立の破壊であり、完全なる独裁国家の成立です。そんな無茶苦茶な政治が許されるはずがありません。

 現行憲法に緊急事態条項はありません。政府の独裁を許さないために、衆議院と参議院が同時選挙となり、投票までの間に、何か大きな事態が発生して選挙が行いにくくなった場合でも、半数残っている参議院が総選挙までの間、最大70日間、国会を運営するというルールがあり、三権分立が守られています。

 「緊急事態条項を憲法に盛り込む」というのは、独裁国家を合法的に作り出す手段です。ワイマール憲法を誇ったドイツが、ナチスドイツに変貌したのと同じことを日本でも企んでいる輩がいるようです。国民から主権を取り上げ、政府が合法的に国を支配してしまう危険性があります。現政権に限らず、いかなる政治家にもそんな代物を与えてはいけません。国民が主権者としての自覚と知識を持ち、国民の意思で否定しないと国が壊されてしまいます。断固拒否しかありません。

                                                               2023年6月 植松 稔